マツです。
山にまつわる不思議な話や体験談を集めた『山怪(さんかい)』(山と渓谷社)が、4年程前から注目されており、この種の出版物としては、異例のベストセラーになっています。この書籍が、2019年10月に漫画化されて発売されました。なんと、この漫画を描いたのは、中学生時代の同級生の墨絵師の五十嵐晃氏でした。とっても良い漫画なので紹介したいと思います。
もくじ
『山怪(さんかい)』とはどんな本?
『山怪(さんかい)』とは、神隠し、狐火、怪物、謎の怪音、異世界………日本各地に残された〝語り遺産〟を収録した 山にまつわる不思議な話や体験談を集めた本で、2015年に【山と渓谷社】から刊行されたものです。原作は田中康弘氏であり、この手の本では、シリーズ3刊で異例の累計20万部とベストセラーとなっています。
『山怪(さんかい)』は山人が語る不思議な話
『山怪』は「現代版遠野物語」として絶賛され、累計約11万部のベストセラーとなった。また、2018年8月15日放送のNHK BSプレミアム「異界百名山」の原案になるなど話題に。山を仕事場とする猟師や、山里に暮らす人々が実際に遭遇した奇妙な出来事を深い親交を持つ著者だからこそ聞くことができた阿仁マタギの体験談をはじめ、時代の流れとともに消えつつある「語り遺産」を丹念に集めた現代形のフィールドワークの集大成である。
『山怪(さんかい)』弐
東北から中国・四国地方まで新たに取材を敢行、山里に埋もれつつある興味深い体験談を拾い集めた「現在形のフィールドワーク」である。
「新たなる遠野物語の誕生」としてさまざまなメディアで絶賛された前作からさらに拡張する、山で働き、暮らす人々の多様な語りは、自在にしてエキセントリック。「語り遺産」ともいうべき、失われつつある貴重な山人たちの体験に、読む者は震撼しつつ、深い郷愁の念のとらわれる。
民衆の記憶を渉猟して築かれた新たな物語の誕生!あるいは、現代と近代の境界を漂う不定形のナラトロジー!
『山怪(さんかい)』参
高度なテクノロジーが支配する現代に、原初的な恐怖を掘り起こし、新たなる遠野物語として社会現象になった「山怪」。山で働き暮らす人々が実際に遭遇した奇妙な体験の数々。ベストセラー『山怪』の第三弾がついに登場。山岳、怪談、民俗学の領域を超えて拡散する「語り」の魔術。
山怪の著者のプロフィール
『山怪』の著者は、30年以上に渡って秋田の阿仁マタギなどの各地の猟師を追い続けてきたフリーカメラマンの田中康弘氏(たなか・やすひろ)(60)です。田中康弘氏は、1959年、長崎県佐世保生まれで礼文島から西表島までの日本全国を放浪取材するフリーランスカメラマン。農林水産業の現場、特にマタギ等の狩猟に関する取材多数。
著書には、『山怪』シリーズの他に『マタギ 矛盾なき労働と食文化』『女猟師』『マタギとは山の恵みをいただく者なり』『日本人はどんな肉を喰ってきたのか?』(いずれも枻出版社)、『猟師が教えるシカ・イノシシ利用大全』(農山漁村文化協会)、『ニッポンの肉食』(筑摩書房)等があります。
『山怪(さんかい)』がベストセラーになった理由は?
どうも『山怪(さんかい)』のような本が、トータルで20万部を越えるベストセラーになることは異例なことのようです。しかも読者は男性だけでなく女性も多いそうです。何故、『山怪』が広く受け入れられているのか、著者、編集者、大学教授などが次のように分析している。
- 多くの人に読まれている理由のひとつには、すべてのことに正解や理由、確実性を求めることをよしとする現代社会の息苦しさもあるのだろう。分からないものは分からない。それでもそれは確かに存在する。
- 『山怪』の読者層には女性も多く、中高年の男性を中心にして、幅広く受け入れられている。原作者の田中さんはこんなにも読まれる理由を聞かれたが「まったく分からない。ただ、人は不思議なもの、怖いものにひかれるようなので、怖がらせようとは意識していないが、これまでとは違った味付けの本になっている為、受けたのでは?」話している。
- また、編集者の勝峰さんは、「日本は山国で、闇がある。都会で暮らしてはいても、地方出身の人は子供の頃、そんな闇を経験している。この本で、そのときの恐ろしかった感覚を思い出すのかもしれない。文章が作為的ではなく、自然なのも良かったのでは」と指摘している。
- 更に狩猟文化と山村の現状にくわしい田口洋美・東北芸術工科大学教授は、「震災や災害などが続き、自然の怖さ、自然の不思議さに興味を持つ人が多いのではないか。体験談を集めたものなので、リアリティーがある。『遠野物語』が出たときの驚きと同じように、都会に暮らす人たちに受けているのかもしれない」と語っている。
山怪(さんかい)が漫画化された理由
リイド社では、「完全無料、毎週金曜日更新」の新ウェブマンガメディア「コミック ボーダー」を2018年12月14日(金)オープンしました。この「コミックボーダー」のコンセプトは、国境の街を歩いているようなワクワクする作品、この世界とあの世界を行き来するような不思議で刺激的な作品、誰かと心がつながるようなドキドキする作品をお届けするということのようです。そして選定される作品は、本格長編&ベストセラーとなった原作本を漫画化して作品を提供するというものです。このオープニングを飾るマンガの原作本として、田中康弘氏の『山怪』が選ばれ、今回初めてマンガを描くという、墨絵師の五十嵐晃氏によって、コミカライズされたものです。
この漫画化を担当したのは、本作が漫画デビュー作となる五十嵐晃氏です。墨絵師・画家である、五十嵐晃氏が、「和紙」と「墨絵」で表現される、独自のタッチで、どこか懐かしくてユーモラスで恐ろしい、もうひとつの「山怪」の世界を見事に描いています。
表紙の漫画も味があって良いですよね。
全17話が掲載されています。
実際の漫画はこんな感じです。話の内容と漫画のタッチが良いですね。
漫画にはあまりあとがきのようなものはないと思いますが、最終頁には五十嵐画伯直筆のあとがきが 書いてありました。そこには、このコミックを発刊するに当たってお世話になった方々への感謝の言葉が綴られていました。
五十嵐晃氏とは?
五十嵐晃氏は、現在、フリーの墨絵師、イラストレーターとして活躍中であり、個展なども開催している画家です。埼玉県嵐山町に移住し、無農薬のコメ作りにも取組み、豊かな自然の中で職住一体の生活を続けているようです。元々は漫画家になることが、夢だったようです。今回、漫画家と夢を実現できた事は素晴らしいです。「あきらめなければ、夢はかなうのです」
五十嵐晃氏のプロフィールは?
1960年、山形県鶴岡市生まれ。1983年にデザイン会社勤務。その後、イラストレーターとしてフリーランスに。1996年、有限会社五十嵐晃事務所設立。おもな仕事に、墨によるイラスト、挿絵、アート表現、店舗の看板メニュー、書籍・テレビなどの題字、広告媒体や商品のロゴなど。水墨画展受賞、多数。個展・海外アートフェスティバルへの出品、多数。国際水墨画交流協会正会員。日本デザイン書道作家協会正会員。全国水墨画美術協会正会員。
イラストレータの傍ら就農準備校埼玉比企郡小川町有機野菜コースにて野菜を中心に、 稲作、畜産、加工等の有機の実践技術と経営を学ぶ。都内から比企郡嵐山町に居を移し本格的に自然農法での野菜作り、 無農薬、無堆肥の米造りをはじめる。『山怪』の漫画化で漫画家デビュー。
五十嵐晃氏の現在の写真
五十嵐晃氏 中学3年生時の写真
この時は、髪の毛ふさふさで色白の美少年だったと思いますが、45年の歳月はこんなにも変えてしまうんですね!でも面影はありますよね。
山怪(さんかい)コミックの感想レビュー
twitterや読書メーターには、次のような感想レビュー等が寄せられており、山怪の漫画化の評判は良いようですね。
鈴木英雄さんから借りた漫画化した山怪を読んでみたw
実に興味深い!w
昔話好きな人やプチホラー好きな人には
面白い内容になっていましたw当然、打当マタギのシカリ「鈴木英雄さん」のお話もあります!
リイド社よりnow on sale !!— 高橋 了介@JP7WEG (@ryousuke_takaha) 2019年10月30日
昨夜はマタギ、山怪、などの著者田中康弘さんを迎え山怪が漫画化され出版された記念の忘年会をゴルゴ13でお馴染みのさいとうたかをプロダクションのリード社と狩猟生活などの出版社の山と渓谷社の主催で行われました、取材で全国を回られているだけあって厚みのある面白い話で大いに盛り上がりました
pic.twitter.com/BIdMUX7tku— 高円寺GIBIER 猪 鹿 鳥 (@MATAGIOYAJI) 2019年12月10日
購入】矢口高雄の「マタギ列伝」は読んだけど、吉村昭の「羆嵐」は未読なままの、温いマタギ好きではありますが、何故か昔から『マタギ』が好きで、阿仁マタギという単語だけで手に取った一冊。「山怪」の漫画化、味のある墨絵で描かれ、不思議で不条理でゾッとするようなお話にはぴったりでした。山の中には何かいる。盛り上がりも、ちゃんとしたオチがある訳でもなく、ただそれだけ、こんなことがあったという経験の口伝え。理由もなく道に迷ったりとか、不思議な娘が編み機を抱えていたとか、霊が付いてきて奥さんに憑依したとか、怖い。
「山怪」は面白い。マタギにも興味あるし、実話系不思議な話が好き。漫画化になって、墨絵で雰囲気ある絵柄が楽しい。山怪は読了済だが漫画としても十分、味があり面白い。同じ内容でも表現変われば別作品のように楽しめる。というか、絵という分かりやすさが不気味さを直に感じる。先に漫画読むとイメージが固定化される程良い絵なので、自分は文を読み自分でイメージしてから漫画を読むのが良いかな。
名著『山怪』を漫画化した作品。 作画は水墨画家の筆者によるもので、画のタッチはやはりアニメ「まんが日本昔はなし」を彷彿とさせ、懐かしい。個人的には、原作よりも、このアニメを連想させる。 作品の流れを見ると、漫画というよりは、連作の画集のようである。そのため、欲を言えば、話のテンポがもっと良かったらいいのにと思う部分が多々あった。 個人的には、「楽しい夜店」にて鉄橋の上から夜店を眺めるシーンが、大変好みの1枚。
原作は未見であるが、マタギの里として知られる秋田県阿仁郡阿仁地方(現、北秋田市)で採話された山の怪談奇譚を、水墨画のようなタッチでコミカライズ化したもの。殺伐とした現代の都市伝説とは異なり、美女に化けた狐狸に化かされて、持参の大切な食物を奪われたり、見たこともない怪物と対峙するなど、昔ばなしでよく聞かされた様な牧歌的ともいえる怪談がマンガとなった事により際立つが、物語の時代背景となる昭和の頃は、古い時代の気風を持つ人々や自然への畏怖がまだ色濃く残っていたが故に体験し、見聞きした実話怪談なのであろうか…。
今後の発刊予定
一年後の2020年10月には「山怪」コミック弐が発刊することが決定していているようです。その後には「山怪」コミック参が発刊されるものと思われます。五十嵐晃氏には、今後、ますますの活躍を期待したいと思います。
まとめ
山形県鶴岡市という地域は、作家や芸術家をたくさん輩出しています。以前からそういう土壌があるのでしょう。有名なところでは、直木賞作家 藤沢周平氏、佐藤賢一氏 芥川賞作家 丸谷才一氏、絵本作家 土田義晴氏、映画監督 富樫森氏があげられます。その他にもたくさんの芸術家が輩出されています。
その意味では、五十嵐晃氏が、著名な墨絵師・イラストレーター・漫画家となりえたのは、本人の才能と並々ならぬ努力があった事は当然ですが、鶴岡という風土が作りだした粘り強さも関係していたのではないかと思います。
私は還暦を境にセミリタイア、65歳には完全リタイアを考えていましたが、還暦近くになってから初めて漫画へ挑戦し、夢を実現した五十嵐晃氏の意欲と頑張りには、大きな刺激を受けました。私もまだまだリタイアなど考えず、新たな目標に挑戦しようと決意しました。